のんべえ手帖

お酒にまつわるいろいろ

生酛を飲みくらべ

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FBO主催のテイスティングセミナーです。

利酒師などの資格をつくったFBOが、月1回、年10回開催しているテイスティングセミナー。毎回、テーマに沿ったさまざまな酒を試飲する。今回のテーマは「生酛」。20種類くらい生酛造りの日本酒が試飲できた。

 

遅刻して行けなかったけど、午前中はフルーツや花、野菜、スパイス、調味料などさまざまな香材を使った嗅覚や水溶液を使った味覚のトレーニングもある。

午後から、いずみ橋蔵元、橋場 友一さんがゲスト講師として登壇。橋場さんが、かなりのぶっちゃけキャラで、生酛造りの現場の話をおもしろおかしく教えてくれた。

 

年間1000石造る泉橋酒造では、半分の500石が生酛造り。本当は全量やろうとしたけど、蔵人に「無理っす!」と言われ今のような数量になったとか。山卸しという、米をすり潰す作業も大変だけど、思い通りに酒母造りが進まないので、緊張感が速醸のそれとはぜんぜん違うと語っていた。あと、神奈川県の協力を得て、生酛と速醸の成分の違いなど研究も進めているそうだ。

 

酒母づくりは、アルコールを造ってくれる酵母を大量に培養して増やす工程。その中で、乳酸菌が重要な役割を担う。天然ものの乳酸菌を使えば生酛、人工の乳酸を使うのが速醸酛だ。

酒母造りでも、ドラマティックな菌どうしの戦いがあっておもしろい。亜硝酸が雑菌や野生酵母を殺し、さらに乳酸が亜硝酸を殺す、添加された酵母が乳酸を殺し、酵母の完全勝利で戦いが終わる。うまくいけばだが。

このことを泉橋では、亜硝酸織田信長、乳酸が豊臣秀吉酵母徳川家康と戦国時代にたとえて説明するそうだ。分かりやすい。繰り返される権力者争い、諸行無常…。でもそうやって、強い者が勝ち残る。もろみの最後までヘタらない、発酵力旺盛な丈夫な酵母がたくさんできるってわけだ。

 

ちなみに、税務署に提出するという酒母製造帳まで見せてくれた。30日間かけて変化する酒母の温度や酸度などが細かに記載されていて、速醸と生酛の大変さの違いを実感することができた。

生酛造り、やっぱ大変なんだな。しかし、大変さすらストーリーとして成立させてしまう、ロマンあふれるお酒でもある。

 

ということで、いずみ橋も含めて20酒飲みくらべ。

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いずみ橋は、速醸と生酛。

右から

「恵 海老名耕地80%」2017BY 速醸
→熟成から来る複雑さがあって、最初こっちが生酛かと思った

「秋とんぼ 山田錦」生酛
→軽くてなめらか。スッキリ軽快。速醸かと思った

「とんぼラベル 純米大吟醸 山田錦」速醸
→カプ系フルーティ、なめらかな甘味。今どき

「とんぼラベル 純米大吟醸 楽風舞」生酛
→フルーティ&少し乳酸。ふくらみ丸み苦味の余韻が長い

 

橋場さんいわく、複雑な味が残る生酛は赤ワイン、きれいな酒質になりやすい速醸は白ワイン、と捉えているそうだ。生酛は、肉にも合わせられるイメージってことでいいのかな。あと、舌の上で歩けそうなのが生酛、透明すぎて歩けなさそうなのが速醸と言っていたが、まるで分からなかった。すんません。

 

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生酛の王者、菊正宗と大七登場。

「菊正宗 嘉宝蔵 灘の生一本」
→木樽っぽさ、淡みかん、きめ細かな酸 橋場さんいわく「大手メーカー臭ある」

大七 生酛」
→アタックやわらか、甘と酸のバランス、ふくらみある酸

「初孫 一徹生酛」
→シルクみたいな膜、上記2つより、味しっかりめ

龍力 特別純米 生酛仕込み」
→少し穀物っぽい乳酸香、甘味! 中盤の酸、苦味の余韻長い 橋場さんいわく「冷酒でも甘味が残って、わかりやすい酒だ」

 

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特別純米酒 るみ子の酒
穀物っぽさと少し吟醸香、みかんっぽい酸、若々しさある、少しモダン

龍勢 生酛 備前雄町」28BY
→香り醤油のような調味料っぽさと青っぽさも、濃醇、厚み深みのある酸、旨味

「竹鶴 生酛 純米」9年寝かせたもの
→みつや木のような複雑な熟成香、でも、少し硬さも感じる、水なのかな。にしても、ザ・クラシック!今すぐ燗にしたい…!

ここから山廃シリーズ!
「刈穂 山廃純米 超辛口」秋田酒きた。
→桃のような吟醸香が少し、軽快、透明感ある、旨味もそこそこ

生酛と山廃の違いについて、橋場さんいわく、「あまり違いはない。造り手にとっては、生酛の方がやりやすい。山廃はどうなるか分からないところがある」あと、山廃といっても、多少の酛すりはしている蔵が多いそうだ、なぜなら安定するから。
ちなみに、秋田は、秋田流生酛っていって、ドリルで米をすり潰すのも特徴。しかし、味が軽いな!

 

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天狗舞
→ 麹や炊いた米みたいなのと熟成香、口当たりのやわらかさ、味が整ってる

手取川 山廃純米大吟醸 無濾過原酒 Rough Diamond」
→桃っぽい吟醸香、甘酸のバランス、速醸っぽいけど、余韻の長さがある

「山形正宗 純米雄町 生もと造り」雄町
吟醸香、フレッシュさ、甘酸ジューシー、後味の余韻きれい。長田先生いわく「前半と後半で違う種類の酸味がでてくるよう」ザ・モダン

「クラシック仙禽 無垢2019」自社培養の乳酸菌を使用して高温糖化酛 
→イソ系、重め、少しヒネ? ジューシー、厚みのあるしっかりとした酸味 ザ・モダン

「新政 ラピスラズリ2019」
→木の香り、すっぱ甘い、木のニュアンス、きれい。モダンオブモダン生酛

 

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「玉川 自然仕込み生酛純米酒コウノトリラベル」無農薬米を無濾過生で4年熟成
→醤油とか調味料、特にゴマ感、米麹、複雑な熟成香、厚みのある酸味、ドーンとDRY! 旨味苦味、余韻長い。

「仙禽 オーガニックナチュール」酵母無添加、木桶仕込み
→酸味高い、ヨーグルトっぽい香り、アタックのきれいな甘味。甘酸のバランス。口に乳酸の膜がはったような感じ…

「とんぼラベル 熟SWE(じゅくすぅい)」
→バターとか乳製品の香り、甘い!濃厚! 酸、苦味の余韻長い。
橋場さんいわく「甘いお酒を造ってみたかった…」

 

生酛飲みくらべてみて、後半舌が疲れた。酸、酸、酸のオンパレード。酸まつりだった。燗酒にしてみたい…!というのがやはり多い。そのままではなく、温めて発揮しそうなポテンシャルを秘めたものが多い。そのままでも美味しいのが、モダンよりなのかも。あと、余韻の長さも特徴的だったな。

 

一般的に、生酛はアミノ酸の成分が多く、燗酒に向く酒質になりやすい。このあたりは、菊正さんのHPにも詳しく載っている。菊正宗理論によると、酒の"おし味"となるペプチドの量が多いのだそうだ。

泉橋が県の協力を得て、日数をおって醪のペプチド量を測定したところ、たしかにペプチドは多いのだけど、醪の後半21日目からガクッと減っていたのだとか。菊正宗に連絡して聞いてみたところ、菊正宗では16日くらいでお酒を絞るからペプチドの量が多いままなのだそうだ。

泉橋では、もろみ後半でペプチドが減った分は、アミノ酸に変化しているのではないか、と仮説をたてていた。もちろん、まだはっきりしていない。なんにせよ、複雑な発酵過程から醸される、ロマンがある酒だ。

 

古酒も生酛も、ロマンだらけだな。つまり、日本酒はロマンチストの酒なんだな。

 

その後、近所の中華系ファミレスで、ビールとハイボールと、ワインを飲んだ。ロマン…。

 

酒量:日本酒1合 ビールジョッキ1 ハイボール2杯 ワイン赤白